このような症状が見られる時には、神経内科・外科として扱うことが多いです。なお、身体のその他の部分に原因がないかについてもあわせて検討いたします。
院内での検査で明らかな異常が認められない場合は、確定診断のためにCTやMRI撮影などの高度画像検査が必要となることもあります。必要に応じて二次診療施設をご紹介しています。神経症状が出てしまっている場合は、長期化すると後遺症が残ってしまうことや命に関わることもあるため、速やかに病院へ受診していただくようお願い致します。
犬の椎間板ヘルニアとは、どのような傷病なのでしょうか?
症状や原因、治療法について見てみましょう。
犬の椎間板ヘルニアってどんな病気?
老化、外傷、激しい運動、遺伝などが原因で椎間板が変性して突出し、脊椎の上にある太い神経(脊髄)を圧迫することで起こる病気です。 頚部、胸部、腰部どこにでも発症の可能性があり、痛みや麻痺といった神経症状が生じます。
椎間板は脊椎にかかる圧力を分散する役割があり、非常に重要なものです。 脊椎(背骨)は1つ1つの短い骨が連なって形成されています。その短い骨と骨の間でクッションの役割をしているのが椎間板です。 椎間板は外側が「繊維輪(せんいりん)」という組織、内側が「髄核(ずいかく)」という組織から成っています。
どんな症状なの?
軽度であれば、「なんとなく激しい運動をしなくなった」と感じる程度で、なかなか症状に気がつかないこともあります。
病状が進行してくると、足元がふらついたり引きずるような歩き方になります。さらに病状が進行し重度となると、突然立ち上がれなくなったり、自身の力で排尿・排泄のコントロールできなくなることもあります。骨折、脱臼、腫瘍、脊椎炎などでも椎間板ヘルニアと似た症状が見受けられることがあるので、気になる症状が出ている場合は早めに病院で検査を受けましょう。
原因はなに?
椎間板ヘルニアの原因として大きく分けて2つあります。
1:加齢によるもの
加齢により繊維輪が変性して亀裂が入り、髄核が入り込むことで繊維輪が押し上げられます。繊維輪が押し上げられた分、脊髄が圧迫され、椎間板ヘルニアが起こります。
2:遺伝的なもの
「軟骨異栄養症(なんこついえいようしょう)」という遺伝子を持つ犬は、ゼリー状の髄核が生まれつき固くなりやすくなっています。固くなった髄核が繊維輪を圧迫することにより亀裂が入り、髄核が繊維輪から逸脱します。これにより脊髄が圧迫され、椎間板ヘルニアが起こります。
かかりやすい犬種はいるの?
加齢によるものはどの犬種でもかかることがあります。遺伝的なものでは、軟骨異栄養犬種(ミニチュア・ダックスフンド、ウェルシュ・コーギー・ペンブローク、シー・ズー(シーズー)、ビーグル、ペキニーズ、フレンチ・ブルドックなど)がかかりやすいです。
※軟骨異栄養犬種
遺伝性疾患により手足が極端に短く産まれてくることがありますが、この遺伝子をもともと持っている犬種を軟骨異栄養犬種といいます。この犬種は椎間板の早期変性を起こしやすいため、一般的には老齢で発生する椎間板ヘルニアが若いうちに発生しやすかったり、何カ所もの椎間板が同時に変性して症状を起こしたりすることが知られています。
犬の椎間板ヘルニアの治療法には、どんなものがあるの?
神経系の検査やレントゲン検査を行いますが、実際にどの個所の椎間板がどのように突出しているのかを判断するにはCT・MRI検査が必要になります。
-投薬-
軽度の場合は、鎮痛剤などの投薬と安静にすることで改善を図ります。数週間の安静が必要になりますが、症状が安定する前に通常の生活に戻してしまうと、重症化して歩けなくなるおそれがあります。
-外科手術-
重度となり麻痺を起こしている場合は、内科療法での治癒を期待することは困難です。根治は突出した椎間板を摘出する外科手術となります。術後管理やリハビリが非常に大切です。
椎間板ヘルニアにならないための予防法はあるの?
-肥満を防止する-
子犬のときからバランスの良い食事と適度な運動で柔軟な筋肉を作っておくことや、肥満にさせないことは大切です。
-無理な姿勢を取らせない-
二本足で立たせたり、仰向けに抱いたりなど、無理な姿勢を取らせないようにしましょう。
-床材の見直し-
足腰に余計な負担がかからないように床材を滑りにくいものにするなど環境の見直しも有効です。
てんかん
繰り返し発作が起こってしまう病気であり、発作を引き起こしてしまう原因は脳そのものにあったり、脳以外にあったりと様々です。発作自体は通常1~3分ほどでおさまりますが、5分以上続く場合や、発作後に本人の意識が回復せずに次の発作が連続して起きてしまう(発作重積)場合は、速やかに発作をおさめる必要があります。来院時にも発作が続いている場合には、鎮静を目的としてミダゾラムの点鼻や、ジアゼパムの注射を実施します。また、普段の生活の中で発作を制御するため、フェノバールやゾニサミド、レベチラセタムといった抗てんかん薬の使用が必要となることもあります。
水頭症
脳室に脳脊髄液が溜まってしまう先天性の病気であり、ネコちゃんではほとんどありませんが、ワンちゃんではマルチーズ、ヨークシャー・テリア、チワワ、ポメラニアン、トイ・プードル、シー・ズーなど小型犬で見られやすいとされています。
基本的には1歳以下の犬でみられ、脳室に脳脊髄液が溜まり、脳内圧が上昇することで脳実質が圧迫され萎縮することで、運動障害や意識障害、知覚障害を伴うことが多いとされています。
早期の診断により適切な治療ができれば、長期間の症状のコントロールが可能とされています。そのため、脳圧亢進を防ぐために、浸透圧利尿薬(マンニトール、イソバイド)やグルココルチコイド(プレドニゾロン、デキサメサゾン)、炭酸脱水酵素阻害剤(アセタゾラミド)などの使用が考えられます。
前庭障害
前庭障害とは、脳神経の1つである内耳神経のうち、前庭神経が何らかの理由で障害を受けてしまうことで、体の平衡感覚を保てなくなってしまうことを指します。症状は、運動失調や捻転斜頸(首の捻れ)、眼振、斜視、嘔吐などが挙げられます。また、障害をきたす原因として、中耳炎や内耳炎が挙げられ、それ以外にも甲状腺機能低下症(特に高齢の犬)や腫瘍性疾患(猫の耳道内ポリープなど)が考えられますが、原因不明に症状が起こってしまうこともあります(特発性前庭障害)。治療はそれぞれの原因により異なります。中耳炎や内耳炎が原因であれば、抗生物質や抗炎症薬(プレドニゾロン)の使用が考えられます。また、特発性の前庭障害であれば、支持療法や対症療法を中心とした治療が必要となります。
脳炎
ワンちゃんとネコちゃんの中枢神経において、感染ではない原因不明の炎症性疾患がみられることがある。発生に関してはその疾患により、品種や年齢に偏りがあり、それぞれ特徴的な症状を示します。
A. 肉芽腫性髄膜脳脊髄炎(GME)
ワンちゃんの中枢神経系に肉芽腫性病変を形成する特発性の非可能性炎症性疾患であり、犬種に関係なく若齢から中齢の小型犬に好発します。症状としては発作や失明、首の捻れ(捻転斜頸)、旋廻行動、頚部痛など様々な中枢神経症状が認められます。
B. 壊死性髄膜脳炎(NME、パグ脳炎)
パグやシー・ズーなどの小型犬種に起こる疾患であり、1~3歳齢で起こりやすいとされています。最もよく見られる症状は突然のてんかん発作が多いです。
C. 壊死性白質脳炎
ヨークシャー・テリアやチワワ、パピヨンなどの小型犬種に発生する疾患であり、犬種によらず、2~6歳齢の小ぶりな体系の子に起こりやすいとされています。上記の疾患と比べて、発作の発生はそこまで多くないとされていますが、運動失調や旋回運動、捻転斜頸などの神経症状が認められることが多いです。いずれの疾患に対しても、治療にはグルココルチコイド(プレドニゾロンなど)が有効とされています。
脊髄空洞症
脊髄中心管以外の脊髄実質が液体により満たされた異常な空洞のことであり、頚部領域でよく認められます。脳の先天性疾患である水頭症などに併発することが多いとされ、小型犬種によく認められます。
脳腫瘍
脳腫瘍とは、中枢神経にできる腫瘍のうち、頭蓋内に発生する腫瘍の総称であり、脳そのものの組織以外にも、頭蓋骨も含めた頭蓋内にある組織からできる腫瘍です。その発生率は犬で2.8%、猫で2.2%とされています。犬では平均9歳で発生するとされ、品種や年齢、性別を問わず起こります。猫では平均11歳で発生するとされています。犬で特に多いとされているものは髄膜腫と神経膠腫であり、猫では髄膜腫が多いと言われております。脳腫瘍により引き起こされる症状は、てんかん発作や意識障害、脳神経障害、運動失調、不全片麻痺、不全四肢麻痺、旋回運動、行動異常など様々です。また発生場所によって症状も少し異なり、後頭葉では視覚障害、下垂体ではホルモン障害なども発症することがあります。犬では特にてんかん発作が症状として多く認められるとされています。脳腫瘍に対する治療法は以下のようなものが存在し、それらを単独ないし組み合わせて行っていきます。
【支持療法】
腫瘍によって生じた脳圧の亢進、浮腫、てんかん発作を制御します。コルチコステロイドによる炎症の制御や、浸透圧利尿剤(マンニトール、イソバイド)による脳圧の低下を目的として使用します。
【外科療法】
発生した腫瘍の切除および減量を目的として実施します。ものによっては完全に切除することが難しいものもあるため、後述する放射線療法や化学療法を組み合わせて実施することも多いです。
【放射線療法】
外科的に摘出することがそもそも困難な場所にできてしまった脳腫瘍や、外科手術により切除が不十分だった場合の組合せの治療として実施されます。当院では放射線療法の実施はできないため、必要と判断された場合には、実施可能な提携病院へご紹介することとなります。
【化学療法】
抗がん剤を用いた治療法です。腫瘍の種類により、適用される抗がん剤が異なるため、腫瘍の種類の確定が必要となります。
猫伝染性腹膜炎(非滲出型)
猫コロナウイルスが原因で起こる疾患であり、腹水や胸水が溜まってしまう滲出型(ウェットタイプ)ではない、非滲出型(ドライタイプ)で神経症状を伴うとされています。病変は主に脳室や脊髄中心管に形成されます。症状は発熱や食欲不振、体重減少が起こり、中枢神経が傷害を受けてしまうと、てんかん発作、前庭障害、歩行障害、意識レベルの低下が認められます。診断には、血清や脳脊髄液に含まれる、コロナウイルスの抗体価測定やPCRによるウイルス検出が必要となります。院内での検査で明らかな異常が認められない場合は、確定診断のためにCTやMRI撮影などの高度画像検査が必要となることもあります。
治療法に関しては、グルココルチコイドにより一時的な改善が認められることもありますが、有効な治療法は確立されていないため、症状の進行緩和や延命を目的とした対症療法が中心となっていました。しかし、近年FIP治療に効果のある薬が出てきました。その薬を使用している論文によると、生存率 82.2%、84日投薬終了後の再発率 2.5%という良好な治療成績が報告されています。当院でも治療を行える体制を整えていますので、診察時にご相談ください。