ガン(腫瘍)について

長年可愛がっていた子が「ガン」であると知った時は、目の前が真っ暗となり、その精神的苦痛は計り知れないものです。もう治らないと思い、治療をあきらめてしまう飼い主様もいらっしゃると思います。しかし、獣医腫瘍学は急速に進歩しており、ガン(悪性腫瘍)といってもその種類や進行度によって治る(根治できる)「ガン」もたくさんあります。また治らない「ガン」でも、治療することにより症状を緩和できる場合があります。

 

【 腫瘍ってなに? 】

体の表面や体内にできるいわゆる"しこり"を腫瘤と呼びます。その中で、細菌などの感染によるものや、正常な組織が増殖したもの(過形成・肥厚など)など以外のしこりを腫瘍と呼びます。
腫瘍には良性腫瘍と悪性腫瘍(癌・肉腫など)があります。良性腫瘍では、転移することがなく、大きくなる速度もゆっくりです。しかし、悪性腫瘍では、一般に増大速度が速く、周囲の組織に浸潤し、肺などに転移することもあります。
このため、治療を開始する前にしっかりとした診断を行うことが重要です。

 

【 腫瘍の診断はどうやってするの? 】

  1. 腫瘍の大きさ、浸潤度の確認
    腫瘍の大きさや、周囲組織との関連を調べます。体の表面の腫瘍では触診が重要です。また、体内のものは、レントゲン検査、超音波検査により確認します。
    また、細胞診検査を行うことにより、腫瘍・非腫瘍の鑑別や、良性・悪性の鑑別などができる場合があります。これらにより、手術の必要性や可否、手術の範囲、難易度などを把握します。
     
     
     
  2. 所属リンパ節の確認
    腫瘍のリンパ節浸潤や、細菌の感染などによって、リンパ節は大きく腫れます。体の表面のリンパ節は触診により確認します。また、体内のリンパ節は、レントゲン検査、超音波検査により確認します。
    リンパ節の大きさや、硬さなどを確認し、必要であれば細胞診検査を行い、腫瘍浸潤の有無を確認します。これにより、腫瘍の進行度などを把握します。
  3. 遠隔転移の確認
    原発の腫瘍より離れた場所で同じ腫瘍細胞が認められることを、遠隔転移といいます。腫瘍により転移しやすい部位がありますが、肺や、肝臓、脾臓などが転移しやすい場所です。また、骨に転移が認められることもあります。
    レントゲン検査や、超音波検査によって、遠隔転移の有無を確認します。これにより、腫瘍の進行度などを把握します。
  4. 全身状態の確認
    血液検査や、尿検査、その他必要な検査を行い、全身状態を確認します。
    これらにより、手術ができるのか?全身麻酔ができるか?輸血の準備が必要か?
    薬(抗がん剤など)はどの種類が適切か?などを確認します。


【 ガンに対する治療にはなにがあるの? 】

ガンに対する治療法には、1.外科療法、2. 化学療法、3. 放射線療法などがあります。それぞれの治療法にも利点・欠点があります。また、腫瘍の種類によって効果のある治療法が異なってきます。腫瘍の種類や進行度に応じて様々な治療法をご提案させて頂きます。

  1. 外科療法
    手術によってガンを摘出する方法になります。ガンの根治を目指すために第一に考慮する治療法です。根治ができなくても症状を緩和し、苦痛を軽減できることもあります。
  2. 化学療法(抗がん剤)
    抗がん剤を使用し、治療する方法です。
    抗癌剤の効果が期待できるガン(リンパ腫など)の場合、外科療法で不完全切除だった場合、術後の病理組織検査でガンの脈管内浸潤がみられた場合などに選択していきます。
  3. 放射線療法
    高エネルギーX線治療装置を用いて治療する方法です。外科療法が困難な場合・外科療法で不完全切除だった場合・抗癌剤の効果が期待できない場合など放射線療法が適切と判断した場合は、放射線療法を提示させて頂き、放射線治療装置の設備のある高度医療施設にご紹介いたします。

 

 

腫瘍外科実績

乳腺腫瘍切除、皮膚腫瘍切除(肥満細胞腫等)、胸腔内腫瘍切除(肺・胸腺等)、 口腔内腫瘍切除(舌腫瘍、上顎・下顎切除等)、腹腔内腫瘍切除(肝臓・脾臓・腎臓、胃、腸管等)、膀胱腫瘍切除、甲状腺腫瘍切除、断脚術、断指術、直腸腫瘍切除、副腎腫瘍切除、腸骨下リンパ節廓清、腫瘍切除後の皮弁術など

 

 

一番大切なターミナルケア

最後になりますが、ガンである、と宣告された場合のご家族のショックはいかばかりだろうと、本当に心が痛みます。しかし、現実を受け入れ、今後どのように過ごしていくのか、厳しい現実ですが考えなくてはいけません。

 

ガンの種類によっても、また同じガンでも、動物達個々の生命力と申しますか、寿命は異なります。中央生存期間などのデータはありますが、一概に皆がそういうわけではありません。ガンの動物達と接している中、経過が比較的良好なケースに動物の性格やご家族の明るさが影響するかもしれないと感じる時があります。

 

医学的な話ではなくなってしまいますが、ずっと悲しんで動物と接するのではなく、事実を受け止め、今までと変わらず明るく接することは、過ごし方として重要かもしれません。
痛みや苦しさが伴うタイプのガンでは、ご家庭での看病もつらいものとなるかもしれませんが、悪性腫瘍が成長しにくくする様なお食事を作ってあげたり、腫瘍の増殖を抑えるお薬、サプリメントを使ったりとしてあげられる事はたくさんあります。

 

悪性腫瘍ができたのは飼い主様の愛情により長生きした証しでもあるのです。ワンちゃんネコちゃん、飼い主様、そして微力ながら我々スタッフで、力を合わせて快適な生活が送れるよう一緒にがんばりましょう!